月夜の晩に

柳沼さんの監督作品、「月夜の晩に」です。
画面設計、色彩、キャラクターどれをとってもすばらしいですが特に細やかなアニメーションが飛びぬけており、静止画ではお伝えできないのが残念です。機会があれば是非どこかでごらんいただきたいと思います(STUDIO4℃より、「月夜の晩に」を含むアニメーション作品集「STUDIO4℃ DVD Collection BOX-NO.01」が発売中)。



画面密度の高い背景。全編実線、セル塗りで表現されているのも特徴の一つ。背景は監督である柳沼氏自身が着彩しているが、当初はのっぺりとした塗りでいけるかどうか自信が無かったという。結果として鈴木英人的なポップアート感と柳沼氏独特の色彩感覚がうまくマッチし、写実的でありながら幻想感にもあふれる世界が構築されました。彩度を落とした明色と、力強い影色のコントラストがメリハリのある画面を生んでいます。



松竹さん担当カット(右)。



桜とマンホールのカット。キャプチャーの都合で色が抜けていますが実際はもっと肌色はしっかりしています。マンホールやベンチ、最終カットの公園などはロケーション取材を行っています。影の描写が面白いですね。影の頭の部分はカラーセロハンを重ねたかのように2重影になっています。



吉成(鋼)さんがペインターで直接描画したというカット。動かすことに貪欲な鋼さんらしく細やかな動き。カモメの滞空がたのしいです。ギターは3Dで、そのままだと線が過剰なので柳沼さんが修正で線を減らしています。それ以外はほぼ無修正だそうです。



この作品をして特異なアニメーションとしている要素のひとつにカリンちゃんのフェティッシュな描写がありますね。つーか裸オーバーオールはあかんやろ…。足なめはもともと吸血鬼のガリレオがヒッピーちゃん(カリン)の足の血をつい舐めてしまうというシチュエーションだったのですが、制作を重ねるうちに柳沼さんの中でどんどんあらぬ方向に膨らんでいったみたいです。



砂埃が非常にねっとりとしており、シェービングムースを吹き付けたかのような描写です。ホイールの上下なども軽快で躍動感がありますね。かたや車体はほとんど上下しないので重量感が伝わってきます。ケン太くんの登場カットではパースに沿って緻密に拡大するケン太くんのアニメートが素晴しい出来。



ベンチから立ち上がるカリン。さりげない立ちの演技がすごく上手くてずっと気になってたんですが、皆美社から出たビジュアルブックによるとラフ原は田中達之さんとのこと。うーむ、まったく気づきませんでした。そのあとの花を受け取るカリンちゃんもリリカルでいいですね。アップ時の唇の色トレスが女性を感じさせます。回転しながら飛んでいくロケットのゆっくりとしたモーション、排煙もいい感じです。そして最終カットのカリンを抱いて歩くロボット君。ここもすごいです。ぶらぶらするカリンの手がちょっとやりすぎな気もしますが重心移動とパースの変化が緻密で見とれてしまいますね。


[キャラクターデザイン/作画監督/色彩設計/美術] 柳沼和良
[原画] 楠本裕子松竹徳幸吉成鋼、伊本龍守、山田誠、青木康浩


yaginuma,homepage
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たのみこむ:「月夜の晩に」本編制作&DVD化
http://www.tanomi.com/metoo/naiyou.html?kid=18968